グッド・ラック・チャーム

good-luck-charm

エルヴィス・プレスリーの「グッド・ラック・チャーム」

あと10年も経って、
この番組や僕のかけたレコードや、
そして僕のことをまだ覚えていてくれたら、
僕のいま言ったことを思い出してくれ。
彼女のリクエストをかける。
エルヴィス・プレスリーの「グッド・ラック・チャーム」。
この曲が終わったらあと1時間50分、
またいつもみたいな犬の漫才師に戻る。
御清聴ありがとう。

―村上春樹,風の歌を聴け

Elvis Presley: Good Luck Charm

エルヴィス・プレスリーの『Good Luck Charm』は、
1962年のシングル。

書いたのは、
アーロン・シュローダーとウォリー・ゴールド。

ドン・ロバートソンが書いたB面『Anything That’s Part of You』と共に、
A面でリリース。

TrackTitleWritten by
AGood Luck CharmAaron Schroeder, Wally Gold
BAnything That’s Part of YouDon Robertson
Label:RCA Victor Catalgue:47-7992 Date:17 Mar 1962

Billboard Hot 100では、
2週連続1位を記録。

全英シングルチャートでも1位を記録して、
プラチナディスクに輝いた曲だ。

Don’t want a four leaf clover
Don’t want an old horse shoe
Want your kiss because I just can’t miss
With a good luck charm like you…

―Bob Dylan: Don’t think twice, it’s alright

四つ葉のクローバーなんていらないサんだ
古い馬蹄のお守りもほしくないよ
だけどねキミのキスは欠かせない
なぜってキミは幸運のお守りだもの

おまけ

最初の引用の前に、
DJはこんな風に語っている。

名前は書いてない。
僕がこの手紙を受けとったのは昨日の3時過ぎだった。
僕は局の喫茶店でコーヒーを飲みながらこれを読んで、
夕方仕事が終わると港まで歩き、
山の方を眺めてみたんだ。
君の病室から港が見えるんなら、
港から君の病室も見える筈だものね。
山の方には実にたくさんの灯りが見えた。
もちろんどの灯りが君の病室のものかはわからない。
あるものは貧しい家の灯りだし、
あるものは大きな屋敷の灯りだ。
あるものはホテルのだし、
学校のもあれば、
会社のもある。
実にいろんな人がそれぞれに生きてたんだ、
と僕は思った。
そんな風に感じたのは初めてだった。
そう思うとね、
急に涙が出てきた。
泣いたのは本当に久し振りだった。
でもね、
いいかい、
君に同情して泣いたわけじゃないんだ。
僕の言いたいのはこういうことなんだ。
一度しか言わないからよく聞いておいてくれよ。

僕は・君たちが・好きだ。

―村上春樹,風の歌を聴け

小説の忘れられない場面を挙げるとしたら、
その1つが間違いなくこの場面だ。

このまえにDJが読む一通の手紙から始まる『37』は、
この物語の中の1番好きなシーンかもしれない。

「お元気ですか?
毎週楽しみにこの番組を聴いています。
早いもので、
この秋で入院生活ももう三年目ということになります。
時の経つのは本当に早いもんです。
もちろんエア・コンディショナーのきいた病室の窓から僅かに外の景色を眺めている私にとって季節の移り変わりなど何の意味もないのだけれど、
それでもひとつの季節が去り、
新しいものが訪れるということはやはり心の躍るものなのです。
私は17歳で、
この三年間本も読めず、
テレビを見ることもできず、
散歩もできず、
……それどころかベッドに起き上がることも、
寝返りを打つことさえできずに過ごしてきました。
この手紙は私にずっと付き添ってくれているお姉さんに書いてもらっています。
彼女は私を看病するために大学を止めました。
もちろん私は彼女には本当に感謝しています。
私がこの三年間にベッドの上で学んだことは、
どんなに惨めなことからでも人は何かを学べるし、
だからこそ少しずつでも生き続けることができるのだということです。
私の病気は脊髄の神経の病気なのだそうです。
ひどく厄介な病気なのですが、
もちろん回復の可能性はあります。
3%ばかりだけど……。
これはお医者様(素敵な人です)が教えてくれた同じような病気の回復例の数字です。
彼の説によると、
この数字は新人投手がジャイアンツを相手にノーヒット・ノーランをやるよりは簡単だけど、
完封するよりは少し難しい程度のものなのだそうです。
時々、
もし駄目だったらと思うととても怖い。
叫び出したくなるくらい怖いんです。
一生こんな風に石みたいにベッドに横になったまま天井を眺め、
本も読まず、風の中を歩くこともできず、
誰にも愛されることもなく、
何十年もかけてここで年老いて、
そしてひっそりと死んでいくのかと思うと我慢できないほど悲しいのです。
夜中の3時頃に目が覚めると、
時々自分の背骨が少しずつ溶けていく音が聞こえるような気がします。
そして実際そのとおりなのかもしれません。
嫌な話はもうやめます。
そしてお姉さんが一日に何百回となく私に言いきかせてくれるように、
良いことだけを考えるよう努力してみます。
それから夜はきちんと寝るようにします。
嫌なことは大抵真夜中に思いつくからです。
病院の窓からは港が見えます。
毎朝私はベッドから起き上がって港まで歩き、
海の香りを胸いっぱいに吸いこめたら……と想像します。
もし、
たった一度でもいいからそうすることができたとしたら、
世の中が何故こんな風に成り立っているのかわかるかもしれない。
そんな気がします。
そしてほんの少しでもそれが理解できたとしたら、
ベッドの上で一生を終えたとしても耐えることができるかもしれない。
さよなら。
お元気で。」

―村上春樹,風の歌を聴け

プレスリーの『Good Luck Charm』は、
それまではわざわざ聴くような曲ではなかった。

でもこのシーンに貼り付いたことで、
ある種特別な曲になったことだけは間違いない。

グッド・ラック・チャーム 関連 Playlist

とはいっても、
プレスリーがリリースしたシングルのA.B面だけだ。

この曲に、
関連した音楽を加えることがナゼかできないからだ。

2曲、
4分30秒。

01 Elvis Presley: Good Luck Charm
02 Elvis Presley: Anything That’s Part of You

村上春樹: 風の歌を聴け で流れる他の音楽たち

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