サマー・デイズ(アンド・サマー・ナイツ!!)

summer-days-and-summer-nights

<カリフォルニア・ガールズ>の入ったビーチ・ボーイズのLP。

「何故ここで働いてるってわかったの?」
彼女はあきらめたようにそう言った。
「偶然さ。レコードを買いに来たんだ。」
「どんな?」
「<カリフォルニア・ガールズ>の入ったビーチ・ボーイズのLP。」
彼女は疑り深そうに肯いてから立ち上がってレコード棚まで大股で歩き、
よく訓練された犬のようにレコードを抱えて持ってきた。
「これでいいのね。」
僕は肯いて、
ポケットに手をつっこんだまま店の中をぐるりと見回した。

―村上春樹,風の歌を聴け

NEBから送られてきた真新しいチクチクするTシャツ着て、
目についたレコード店にはいると小指のない女の子が働いている。

レコードを買いに来た『僕』は、
<カリフォルニア・ガールズ>の入ったビーチ・ボーイズのLPを彼女にリクエストする。

というわけで、
ここでもまたビーチ・ボーイズの『California Girls』が出てくる。

今度はシングルなのかアルバムなのか?
を考える必要はない。

ビーチ・ボーイズのLPって、
ちゃんと言っている。

このLPは、
1965年のアルバム『Summer Days (and Summer Nights!!)』。

Billboard 200では、
2位まで上昇。

このアルバムと『Surfin’ U.S.A.』の2位が、
このバンドの最高位で1位は残念ながら獲得できていない。

The Beach Boys: Summer Days (and Summer Nights!!)

このアルバムは、
A・B面それぞれ6曲。

ほぼブライアン・ウィルソンとマイク・ラヴの作品だけど、
何曲か例外がある。

TrackTitleLead vocal(s)Written by
A1The Girl From New York CityMike LoveBrian Wilson, Mike Love
A2Amusement Parks U.S.A.Love, Brian WilsonB. Wilson, Love
A3Then I Kissed Her Al JardinePhil Spector, Ellie Greenwich, Jeff Barry
A4Salt Lake CityLove/B. WilsonB. Wilson, Love
A5Girl Don’t Tell MeCarl WilsonB. Wilson
A6 Help Me, RhondaJardineB. Wilson, Love
B1California GirlsLove/B. WilsonB. Wilson, Love
B2Let Him Run WildB. WilsonB. Wilson, Love
B3You’re So Good To MeB. WilsonB. Wilson, Love
B4Summer Means New LoveinstrumentalB. Wilson
B5I’m Bugged At My Ol’ ManToo EmbarrassedB. Wilson
B6And Your Dream Comes TrueThe Beach BoysB. Wilson, Love
Label:Capitol. Catalogue:T 2354 Date:5 Jul 1965

The Girl From New York City

1964年末にB面『Kicked Around』と共にリリースされてヒットした、
ザ・アド・リブス『The Boy from New York City』のアンサー・ソングとして書かれたもの。

ウィルソンは更にこの曲のリズムからインスピレーションを得て、
あの『Good Vibrations』に発展させている。

この曲を聴くと、
マンハッタン・トランスファーのカヴァーが思い出される。

1981年のアルバム『Mecca for Moderns』収録曲で、
B面の『(The Word of) Confirmation』と共にシングル・カットされている。

Billboard Hot 100では、
7位のヒット。

随分昔のことだけど、
生で聴いたことがあった。

あとダーツがB面『Bornes』と共にリリースした、
1978年のカヴァーもなかなか良い。

こちらもBillboard Hot 100では、
8位のヒットになっている。

Amusement Parks U.S.A.

中間に、
カーニバルの呼び込みの部分がある。

そこで使われているのはコースターズ、
1961年の『Little Egypt (Ying-Yang)』のイントロの語りの部分。

この曲にはアメリカのアミューズメント・パークの名前がいろいろ出てくるんだけど、
その殆どはこのアルバムのリリース後数年の間に営業を停止している。

ちなみに今でも生き残っているのは、
ディズニーランドとスティールピアくらいだ。

ちなみに特徴的なハモンドオルガンは、
レオン・ラッセル。

Then I Kissed Her

A3の『Then I Kissed Her』だけがカヴァー曲で、
元々はクリスタルズ1963年リリースのシングル『Then He Kissed Me』。

TrackTitlePerformerWritten by
AThen He Kissed MeThe CrystalsP. Spector, E. Greenwich, J. Barry
BBrother JuliusThe CrystalsBrother Julius
Label:Warner Bros. Catalogue:WBS 8542 Date:Feb 1978

リード・ヴォーカルは、
ドロレス・”ララ”・ブルックス。

ウォール・オブ・サウンドのアレンジは、
ジャック・ニッチェとレッキング・クルーをフィーチャー。

Billboard Hot 100では、
6位になっている。

B面もザ・クリスタルズになっているけど、
インストルメンタル曲でアレンジはフィル・スペクター。

Salt Lake City

ユタ州北部の魅力を称賛しているこの曲のタイトルは、
まさにそのユタ州にある都市ソルト・レイク・シティ。

2002年、
冬季オリンピックは開催されたことろ。

前出の『Amusement Parks U.S.A.』をB面にして、
プロモーション・シングルになっている。

この曲とは全く違うんだけど、
ソルト・レイク・シティのことを唄ったものだとこの曲を思い出す。

ジョニー・ラングとレオン・ルネが書いた、
『I lost my sugar in Salt Lake City』。

ジョニー・マーサーとフレディ・スラック楽団が、
1942年に最初にリリースしている曲。

Girl Don’t Tell Me

後で出てくる『Barbara Ann』のB面で、
シングルになっている。

ウィルソンが、
新婚旅行中に思い浮かんだ曲って話。

カール・ウィルソンをリードボーカルに迎えた、
最初の曲の一つ。

ビートルズの1965年のシングル『Ticket to Ride』からの影響がある、
という話もある。

そう思って聴くと、
それっぽいところが確かにあるにはある。

Help Me, Ronda

シングルでリリースされて、
Billboard Hot 100で1位。

ウィルソンは、
この曲がボビー・ダーリン1959年の『Mack the Knife』に触発されたものだと語っている。

それと同じ1959年のバスター・ブラウンの『Fannie Mae』が、
この曲のインスピレーションの源とも言っている。

自分で唄うつもりだったが、
アル・ジャーディンに唄わせている。

彼がリード・ヴォーカルを務めるのは、
1964年『The Beach Boys’ Christmas Album』収録曲『Christmas Day』以来2回目のこと。

California Girls

何回か前に出てきているから、
そちらで。

そう言えば2021年のブライアン・ウィルソンのアルバム『At My Piano』で、
ウィルソンががピアノで弾いたインストルメンタルが意外に良かったりする。

Let Him Run Wild

ウィルソンが、
マリファナの影響下で書いた最初の曲の一つ。

最も嫌いなレコーディングとウィルソンが言っていたけど、
素晴らしい。

1998年になって『Imagination』に再録しているくらいだから、
本当に納得いってなかったんだろう。

ただ、
魔法が掛かっているのはオリジナルの方だ。

あと1968年の『Stack-o-Tracks』には、
この曲のインストルメンタル・ヴァージョンが収録されている。

You’re So Good to Me

1966年、
シングル『Sloop John B』のB面としてリリース。

この曲のイントロというかギターのリフ、
他に似た曲があったはずなんだけどタイトルが思い出せない。

頭の中では、
その曲のイントロが流れてくるんだけどどうしても思い出せない。

Summer Means New Love

インストルメンタルだけど、
本当に良い曲だ。

全然違うんだけどこれ聴くとなぜか、
ビートルズ1964年の『A Hard Days Night』で流れる『Ringo’s Theme (This Boy)』を思い出す。

I’m Bugged at My Ol’ Man

ウィルソンたち子供に対する虐待で知られていた、
父親マリーとの波乱に満ちた関係にインスピレーションを得たもの。

この曲のクレジットは、
バック・カヴァーに『Too Embarrassed(恥ずかしすぎる)』。

父親を馬鹿にしたような内容だからか、
そのあたりはわからないけど。

And Your Dream Comes True

1分ちょっとの、
見事で美しいアカペラ曲。

この曲は、
ライヴで1度も演奏されなかったこのアルバム2曲のうちの1曲。

ちなみにもう1曲は、
『Girl Don’t Tell Me』。

Cover Art

ジャケットの写真はロサンゼルス南部にあるヨットハーバー、
マリーナ・デル・レイの沖合で撮影されたもの。

ヨットはメンバーの誰かのものとかではなく、
賃貸しのものだそうだ。

この日はギターのアル・ジャーディンが、
インフルエンザに罹っていたので不参加で写っていない。

そのことは、
ジャケットの裏に本人のコメントとして書かれている。

Sorry I missed the boat on this album cover.
That very day the pictures were taken
I had to spend in bed with a flu bug
instead of on a yacht with the photographer.

―The Beach Boys – Summer Days (and Summer Nights!!)

ごめんなさいこのアルバムのジャケットの船に乗り遅れて
写真が撮られたその日僕は写真家と一緒にヨットに乗らず
インフルエンザに罹ってベッドで過ごさなければならなかったんだ

まあ普通は別の日に全員揃って改めて撮ると思うんだけど、
そうじゃないんだな。

Carpenters: Ticket To Ride

ちなみにこの『Summer Days (and Summer Nights!!)』のジャケットにそっくりなのが、
ビーチ・ボーイズのファンでもあるカーペンターズの『Ticket To Ride』。

元々は『Offering』というタイトルで、
1969年にリリースされている。

ただタイトルもジャケットの写真も変更されて、
1970年に再リリースされてこれになっている。

おまけ

ここで『僕』が着ていたNEBの真新しいTシャツのイラストが本に出てくるが、
これは村上春樹が描いたもので本によってそのイラストは違っていたりする。

まあ微妙なイラストなんだけど、
もしもそんなTシャツが自分に送られてきたとしよう。

NEBのTシャツは、
せいぜいお家で着るくらいに留めるだろう。

カート・ヴォネガット『Breakfast of Champions, or Goodbye, Blue Monday』にでてくる、
イラストのTシャツだったら着るだろうけどNEBのはね。

でも『僕』はそれを着て、
あてもなく港の辺りをあてもなく散歩する。

そして目についたレコード店に入り、
再び小指のない女の子に出会うことになる。

たまたまだろうか?
それとも調べは付いていたんだろうか?

そしてコンタクトを探してあげた女の子に返すべきレコード、
<カリフォルニア・ガールズ>の入ったビーチ・ボーイズのLPをリクエストする。

彼女はよく訓練された犬ように、
レコード棚まで大股で歩きそのレコードを抱えて持ってくる。

同じ犬でも、
犬の漫才師のDJと女の子とでは随分と違うのだ。

犬の漫才師は、
『僕』にあなたがそうかもしれないと言われて笑い飛ばした。

もしこの場面で、
キミってよく訓練された犬みたいだねと言われたら女の子はどんな反応をしただろうか?

Summer Days (and Summer Nights!!) 関連 Playlist

最後は、
アルバム『Summer Days (and Summer Nights!!)』とその関連曲のプレイリストで。

全30曲、
1時間18分。

01 The Beach Boys: The Girl From New York City
02 The Ad Libs: The Boy From New York City
03 The Ad Libs: Kicked Around
04 The Beach Boys: Good Vibrations
05 The Manhattan Transfer: Boy From New York City
06 The Manhattan Transfer: (The Word of) Confirmation
07 Darts: Boy From New York City
08 Bornes: Bornes
09 The Beach Boys: Amusement Parks U.S.A.
10 The Coasteres: The Fgypt(Ying-Ying)
11 The Beach Boys: Then I Kissed Her
12 The Crystals: Then He Kissed Me
13 Phil Spector: Brother Julius
14 The Beach Boys: Salt Lake City
15 Johnny Mercer with Freddie Slack & His Orchestra: I Lost My Sugar in Salt Lake City
16 The Beach Boys: Girl Don’t Tell Me
17 The Beatles: Ticket to Ride
18 The Beach Boys: Help Me, Rhonda
19 Bobby Darin: Mack the Knife
20 Buster Brown: Fannie Mae
21 The Beach Boys: Christmas Day
22 The Beach Boys: California Girls
23 Brian Wilson: California Girls
24 The Beach Boys: Let Him Run Wild
25 Brian Wilson: Let Him Run Wild
26 The Beach Boys: You’re So Good To Me
27 The Beach Boys: Sloop John B
28 The Beach Boys: Summer Means New Love
29 The Beach Boys: I’m Bugged At My Ol’ Man
30 The Beach Boys: And Your Dream Comes True

村上春樹: 風の歌を聴け で流れる他の音楽たち

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