ボブ・ディランの「ナッシュヴィル・スカイライン」が聴こえる。
「みんな寂しがっていたわ。
―村上春樹,風の歌を聴け
一週間も来ないのは体の具合が悪いんじゃあないかってね。」
「そんなに人気があったとは知らなかったな。」
「……私のことを怒ってる?」
「どうして?」
「ひどいことを言ったからよ。
それで謝りたかったの。」
「ねえ、
僕のことなら何も気にしなくていい。
それでも気になるんなら公園に行って鳩に豆でもまいてやってくれ。」
彼女が溜息をついて、
煙草に火を点けるのが受話器の向こうから聞こえた。
その後ろからはボブ・ディランの「ナッシュヴィル・スカイライン」が聴こえる。
Bob Dylan: Nashville Skyline
1967年『John Wesley Harding』に続く、
1969年ボブ・ディラン27歳の時のアルバム『Nashville Skyline』。
カントリーに何となく近付いていたディランが、
ついに『全篇カントリーのアルバムつくってみました』という感じのアルバムだ。
Track | Title |
A1 | Girl from the North Country |
A2 | Nashville Skyline Rag |
A3 | To Be Alone with You |
A4 | I Threw It All Away |
A5 | Peggy Day |
B1 | Lay Lady Lay |
B2 | One More Night |
B3 | Tell Me That It Isn’t True |
B4 | Country Pie |
B5 | Tonight I’ll Be Staying Here with You |
このアルバムの良いところは、
30分もかからないで聴き終えられることだ。
そもそも雑聴とは言ってもカントリーは全く聴かないんだから、
これくらいがいくらディランでもやや限界なのだ。
Girl from the North Country
アルバムは、
ジョニー・キャッシュと唄う『Girl from the North Country』で始まる。
ディランの声が、
これまでの声と違う澄んだ声で最初に聴いた時はさすがに驚く。
この曲は、
もちろん1963年の2ndアルバム『The Freewheelin’ Bob Dylan』の中の1曲でもある。
聴き比べてどちらが良いか?っていうのはないんだけれど、
それでもこのオープニング・トラックでこの声はインパクトが大きい。
Nashville Skyline Rag
ディランのレコードでは、
初のインストルメンタル曲。
ナッシュヴィル屈指のセッションミュージシャンたちのテクニックが存分に発揮された、
いろんな楽器のソロが次から次へと出てくるのが楽しい。
カヴァーは、
デューク・レヴァイン1994年のアルバム『Country Soul Guitar』の収録曲がなかなか良い。
To Be Alone with You
曲が始まる前に、
ディランがプロデューサーのボブ・ジョンストンに『Is it Rolling Bob?』と言っているのが聞こえる。
この曲のカヴァーは、
マリア・マルダが結構良い。
2006年、
ディランのカヴァー・アルバム『Sings Love Songs Of Bob Dylan – Heart Of Mine』の収録曲。
I Threw It All Away
ウッドストックにあるディランの自宅で休暇を過ごしていたジョージ・ハリスンとパティ・ボイドに、
この曲を演奏したという話がある。
ハリスンは『Let it Be』セッションの中で、
この曲を唄っている。
エルヴィス・コステロが、
この曲をカヴァーしている。
1995年にリリースされた、
全曲カヴァー曲で構成されたアルバム『Kojak Variety』の収録曲。
Peggy Day
前曲でジョージ・ハリスンが出てきたからか、
この曲を聴いたら『Between the Devil and the Deep Blue Sea』が頭の中でごっちゃに回り出した。
ジョージ・ハリスン、
12枚目であり最後のスタジオ・アルバム『Brainwashed』収録曲。
この曲、
ハリスンがカヴァーしたら良い感じだっただろう。
Lay Lady Lay
元々は、
1969年の映画『Midnight Cowboy』の為に書かれた曲。
ただ間に合わなくて、
ハリー・二ルソンの『Everybody’s Talkin’』に取って代わられたのは有名な話。
Billboard Hot 100では、
ディランの曲が7位でネルソンの方が6位だった。
One More Night
まさにカントリーって感じの曲で、
カヴァーに至っては更にカントリー度が増しているからどれもちょっと苦手。
ただ、
カヴァーと比べると何だろう何かが違う感じがすると思うのは多分贔屓目なんだろう。
Tell Me That It Isn’t True
これもカヴァーはほぼ苦手で、
ディランのオリジナルだけが辛うじて聴ける。
アレンジの問題なのか声の問題なのか、
これもやはりただの贔屓目なのか?
Country Pie
ギターが、
良い感じで鳴っている。
この感じは、
嫌いじゃあない。
そうなると、
カヴァーも良いねというものがちゃんとある。
ザ・ナイスが、
この曲をカヴァーしている。
1970年の解散直後にリリースされたアルバム、
ヒプノシスのカヴァー・アートが印象的な『Five Bridges』の収録曲。
メドレーで、
続く曲はバッハの『ブランデンブルク協奏曲』第六番変ロ長調 BWV1051を改作した作品。
Tonight I’ll Be Staying Here with You
これも、
嫌いじゃあない。
これも同じで、
カヴァーも良いものがある。
ジェフ・ベック・グループ1972年の『Jeff Beck Group』、
いわゆるオレンジ・アルバムの収録曲。
あとはティナ・ターナー、
1974年の『Tina Turns the Country On!』のカヴァーもかなり良い感じだ。
おまけ
ところで小指のない女の子との電話の時、
このアルバムのどの曲が流れていたんだろう?
刺々しかった小指の無い女の子は、
ここでは妙に素直で良いコになっている。
まるでこのアルバムのボブ・ディランの声が、
それまでのしわがれ声からツルツルの澄んだ声に豹変したような変化だ。
そうすると、
このアルバムがここに出てくる必然性が生まれるんだけど。
まあ正解はないので、
好き勝手に想像するだけだ。
そういえばディランの声がこのアルバムで今までとは違う理由は、
煙草をやめたらこうなったと本人が言っている。
電話の向こうの女の子は、
溜息をついて煙草に火を点けるんだけどね。
Nashville Skyline 関連 Playlist
最後に、
ボブ・ディラン1969年の『Nashville Skyline』とその関連曲のプレイリストを。
19曲、
1時間。
01 Bob Dylan: Girl from the North Country(duet with Johnny Cash)
02 Bob Dylan: Girl from the North Country(From The Freewheelin’ Bob Dylan)
03 Bob Dylan: Nashville Skyline Rag
04 Duke Levine: Nashville Skyline Rag
05 Bob Dylan: To Be Alone with You
06 Maria Muldaur: To Be Alone with You
07 Bob Dylan: I Threw It All Away
08 Elvis Costello: I Threw It All Away
09 Bob Dylan: Peggy Day
10 George Harrison: Between the Devil and the Deep Blue Sea
11 Bob Dylan: Lay Lady Lay
12 Harry Nilsson: Everybody’s Talkin’
13 Bob Dylan: One More Night
14 Bob Dylan: Tell Me That It Isn’t True
15 Bob Dylan: Country Pie
16 The Nice: Country Pie / Brandenburg Concerto No. 6
17 Bob Dylan: Tonight I’ll Be Staying Here with You
18 Jeff Beck Group: Tonight I’ll Be Staying Here with You
19 Tina Turner: Tonight I’ll Be Staying Here with You
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