ザ・ミュージングス・オブ・マイルス

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<ギャル・イン・キャリコ>の入ったマイルス・デイビス。

「他には?」
「<ギャル・イン・キャリコ>の入ったマイルス・デイビス。」
今度は少し時間がかかったが、
彼女はやはりレコードを抱えて戻ってきた。
「次は?」
「それでいいよ。ありがとう。」
彼女はカウンターの上に3枚のレコードを並べた。
「これ、あなたが全部聴くの?」
「いや、プレゼント用さ。」
「気前がいいのね。」
「らしいね。」

―村上春樹,風の歌を聴け

ここではベートーベンと同じように、
マイルス・デイ『ビス』でマイルス・デイ『ヴィス』ではない。

それにしても<ギャル・イン・キャリコ>の入ったマイルス・デイビス、
なんて持って回った言い方をしなくてもとは思う。

普通に、
マイルス・デイビスの『The Musings Of Miles』って言えば良いのに。

それでも、
小指のない女の子は少し時間がかかったけどちゃんとレコードを抱えて戻ってくる。

Miles Davis: The Musings Of Miles

そんなわけで、
ここに出てくる『A Gal In Calico』が入ったマイルス・デイヴィスのレコード。

これは1955年リリース、
ワン・ホーンで通したアルバム『The Musings Of Miles』。

A面・B面に、
それぞれ3曲ずつ入っている。

そのうちデイヴィスのオリジナルは2曲で、
他の4曲はカヴァー。

TrackTitleWritten by
A1Will You Still Be Mine?Matt Dennis, Tom Adair
A2I See Your Face Before MeArthur Schwartz, Howard Dietz
A3I Didn’tMiles Davis
B1A Gal In CalicoArthur Schwartz, Leo Robin
B2A Night In TunisiaDizzy Gillespie, Frank Paparelli
B3Green HazeMiles Davis
Label:Prestige Catalogue:PRLP 7007 Date:September 1955
  • Bass – Oscar Pettiford
  • Drums – Philly Joe Jones
  • Piano – Red Garland
  • Trumpet – Miles Davis

Will You Still Be Mine?

TrackTitlePerformerWritten by
AWill You Still Be Mine?Tommy Dorsey & His OrchestraMatt Dennis, Tom Adair
BYes Indeed!Tommy Dorsey & His OrchestraSy Oliver
Label:Victor Catalogue:27421 Date:May 23, 1941

この曲はマット・デニスと、
トム・アデアが書いた曲。

最初に吹き込んでリリースしたのは、
1941年トミー・ドーシー楽団。

ヴォーカルは、
コニー・ヘインズ。

B面は、
サイ・オリヴァーが書いた『Yes Indeed!』。

ヴォーカルは、
サイ・オリヴァーとジョー・スタッフォード。

ちなみにデイヴィスがこのアルバムでピアノにレッド・ガーランドを選んだのは、
当時気に入っていたアーマッド・ジャマルみたいに弾けるからだったらしい。

この曲も、
ジャマルがよく演奏していたから取り上げたって話だ。

TrackTitlePerformerWritten by
AWill You Still Be Mine?Ahmad Jamal’s Three StringsMatt Dennis, Tom Adair
BAhmad’s BluesAhmad Jamal’s Three StringsAhmad Jamal
Label:Okeh Catalogue:6945 Date:1953

ジャマルのこの曲の演奏は、
1953年のシングルで聴ける。

I See Your Face Before Me

この曲はアーサー・シュワルツが作曲、
ハワード・ディーツが作詞したもの。

元々は1937年のミュージカル『Between the Devil』の為の曲で、
エヴリン・レイとアデル・ディクソンが唄ったのが始まり。

翌年1938年には、
ミルドレッド・ベイリーがカヴァーしているんだけどこのヴァージョンが結構良いのだ。

B面は、
1938年の映画『The Big Broadcast of 1938』で流れる曲『Thanks for the Memory』のカヴァー。

TrackTitlePerformerWritten by
AI See Your Face Before MeMildred Bailey & Her OrchestraSchwartz, Dietz
BThanks For The MemoryMildred Bailey & Her OrchestraSchwartz, Dietz
Label:Vocalion Catalogue:3931 Date:1938

A Gal in Calico

元々は、
1949年の映画『The Time, the Place and the Girl』で流れた曲。

アーサー・シュワルツが作曲、
レオ・ロビンが作詞したもの。

最初のリリースは、
1946年テックス・ベネケとミラー・オーケストラ。

テックス・ベネケと、
クルー・チーフスのボーカル・リフレイン。

アーティ・マルヴィンのボーカル・リフレイン、
A面『Oh, But I Do』のB面でリリースされている。

TrackTitlePerformerWritten by
AOh, But I DoTex Beneke With The Miller OrchestraArthur Schwartz, Leo Robin
BA Gal In CalicoTex Beneke With The Miller OrchestraArthur Schwartz, Leo Robin
Label:RCA Victor Catalogue:20-1991 Date:21 Oct 1946

これもジャマルがよく演奏していたから取り上げた、
って話だ。

ジャマルの演奏は、
1952年のシングルで聴ける。

TrackTitlePerformerWritten by
AA Gal in CalicoAhmad Jamal’s Three StringsArthur Schwartz, Leo Robin
BAki And UkthayAhmad Jamal’s Three StringsAhmad Jamal
Label:Okeh Catalogue:6921 Date:1952

A Night In Tunisia

ディジー・ガレスピーがベニー・カーター・バンドで演奏していた時期、
1940-1942年頃に書かれたもの。

フランク・パパレリの名前が一緒にクレジットされているけど、
実際にこの曲には関わっていない(無関係の編曲作業の報酬としてクレジットされたらしい)。

ガレスピー本人の吹き込みの1つが1946年のもので、
1948年リリースのシングルでUK盤のA面はセロニアス・モンクの書いた『52nd Street Theme』。

TrackTitlePerformerWritten by
A52nd Street ThemeDizzy Gillespie SeptettMonk
BA Night In TunisiaDizzy Gillespie SeptetGillespie, Paparelli
Label:His Master’s Voice Catalogue:B.9631 Date:Mar 1948
  • Bass – Ray Brown
  • Drums – J.C. Heard
  • Guitar – Bill De Arango
  • Piano – Al Haig
  • Tenor Saxophone – Don Byas
  • Trumpet – Dizzy Gillespie
  • Vibraphone – Milt Jackson

この曲のカヴァーといえば、
チャーリー・パーカー1946年のシングルでB面『Ornithology』と共にリリース。

TrackTitlePerformerWritten by
AA Night In TunisiaCharlie Parker SeptetGillespie, Paparelli
BOrnithologyCharlie Parker SeptetBenny Harris, Charlie Parker
Label:Dial Records Catalogue:1002 Date:1946
  • Alto Saxophone – Charlie Parker
  • Bass – Vic McMillan
  • Drums – Roy Porter
  • Guitar – Arv Garrison
  • Piano – Dodo Marmarosa
  • Tenor Saxophone – Lucky Thompson
  • Trumpet – Miles Davis

あとはアート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズ、
1961年のアルバム『A Night in Tunisia』の収録曲。

  • Alto Saxophone – Lou Donaldson
  • Bass – Curly Russell
  • Drums – Art Blakey
  • Piano – Horace Silver
  • Trumpet – Clifford Brown

この曲は、
何種類かの歌詞付きのものがある。

その1つがレイモンド・レヴィーンが作詞したもので、
タイトルは『Interlude』。

このヴァージョンの最初の吹き込みは、
サラ・ヴォーン1944年のシングルでA面『East of the Sun』のB面。

TrackTitlePerformerWritten by
AEast of the SunSarah VaughanBrooks Bowman
BInterludeSarah VaughanGillespie, Paparelli, Leveen
Label:Dial Records Catalogue:1002 Date:1946
  • Bass – Jack Lesberg
  • Clarinet – Aaron Sachs
  • Drums – Morey Feld (tracks: B)
  • Guitar – Chuck Wayne
  • Piano – Dizzy Gillespie (tracks: A), Leonard Feather (tracks: B)
  • Tenor Saxophone – Georgie Auld
  • Trumpet – Dizzy Gillespie
  • Vocals – Sarah Vaughan

I live in a dream for a moment
We’d loved in a midnight solitude
But I never knew at the moment
Love was just an interlude…

Gillespie, Paparelli, Leveen: Interlude

束の間の夢の中
真夜中の孤独の中で愛し合った
でもその時はわからなかった
愛は間奏曲なんだと…

ジョン・ヘンドリックスが作詞したものは、
エラ・フィッツジェラルド1961年のリリース『Clap Hands, Here Comes Charlie!』の収録曲。

TrackTitleWritten by
A1A Night in TunisiaGillespie, Paparelli
A2You’re My ThrillGorney, Clare
A3My ReverieClinton, Debussy
A4Stella by StarlightWashington, Young
A5‘Round MidnightHanighen, Monk, Williams
A6Jersey BounceBradshaw, Feyne, Johnson, Plater
A7Signing OffFeather, Russell
B1Cry Me a RiverHamilton
B2This Year’s KissesBerlin
B3Good Morning HeartacheDrake, Fisher, Higginbotham
B4(I Was) Born to Be BlueTormé, Wells
B5Clap Hands! Here Comes Charlie!MacDonald, Meyer, Rose
B6Spring Can Really Hang You Up the MostLandesman, Wolf
B7The Music Goes Round and RoundFarley, Hodgson, Riley
Label:Verve Catalogue:V-4053 (Mono) / V6-4053 (Stereo) Date:1961
  • Bass – Joe Mondragon
  • Drums – Gus Johnson
  • Guitar – Herb Ellis
  • Piano – Lou Levy
  • Vocals – Ella Fitzgerald 

The moon is the same moon above you
Aglow with its cool evening light
But shining at night, in Tunisia
Never does it shine so bright…

Gillespie, Paparelli, Hendricks: A Night In Tunisia

月はいつものようにあなたの上に
涼し気な夜の明かりに優しく輝く
チュニジアの夜に輝きは
他にはないもの…

おまけ

この『The Musings Of Miles』は、
チャーリー・パーカーが亡くなった年1955年にリリースされている。

『The Musings Of Miles』はいったい誰の為のもの?

ビーチ・ボーイズの『カリフォルニア・ガールズ』が入ったレコードは、
かつてLPを貸してくれて失くしてしまった女の子の為に。

グルード / バーンスタインの『ベートーベンのピアノ・コンチェルト第3番』は、
鼠の誕生日プレゼント用に。

じゃあマイルス・デイヴィスの『ギャル・イン・キャリコ』の入ったLPは、
いったい誰の為のものなんだろうか?

彼女の「これ、あなたが全部聴くの?」の問い掛けに「プレゼント用さ」と言っていたけれど、
このレコードだけが宙に浮いている。

ちなみにタイトルの『The Musings Of Miles』の『The Musings』、
意味は『物思い、沈思、黙想…』。

小指のない女の子にプレゼントするのかと思ったけれど、
自分へのプレゼントなんだろうか?

結局最後まで回収されることはなかったわけで、
正解はわからない。

レナード・バーンスタインとマイルス・デイヴィス

ちなみにグールドが弾くベートーヴェンのピアノ協奏曲の指揮者バーンスタインは、
1956年に『WHAT IS JAZZ』というアルバムをリリースしている。

元々は、
アメリカCBSテレビの教養番組『オムニバス』で実演付きジャズ講座を行ったもの。

それを、
レコードに作り直している。

A面は、
デューク・エリントン・オーケストラ『Take the ‘A’ Train』で始まる。

バースタイン本人が、
ピアノを弾いて歌いながらジャズの要素を説明していく。

B面は『Sweet Sue – Just You』のさまざまなバージョンを聴いて、
最後に現在形の演奏としてマイルス・デイヴィス・クインテットが登場。

この演奏はバーンスタイン自らイントネーションやテンポを指示していて、
この企画用に吹き込まれたもの。

  • Bass – Paul Chambers
  • Drums – Philly Joe Jones
  • Piano – Red Garland
  • Tenor Saxophone – John Coltrane
  • Trumpet – Miles Davis

そんなわけでベートーベンのピアノ・コンチェルト第3番と、
<ギャル・イン・キャリコ>の入ったマイルス・デイビスは繋がったりするのだ。

まあ、
意図したものではないだろうけど。

レナード・バーンスタインとビーチ・ボーイズ(ブライアン・ウィルソン)

ビーチ・ボーイズのスマイル・セッションでレコーディングされて、
その後1971年にリリースされたアルバムのタイトル曲『Surf’s Up』という曲がある。

ブライアン・ウィルソンと、
ヴァン・ダイク・パークスと共作した曲だ。

1967年ウィルソンはバーンスタインが司会を務めたアメリカのテレビ特番、
『Inside Pop: The Rock Revolution』に出演。

ウィルソンはそこでピアノの前に一人座ってこの曲を披露していて、
バーンスタインはこの曲を絶賛している。

そんなわけで、
少なからずこちらも繋がっている。

The Musings Of Miles 関連 Playlist

最後は、
『The Musings Of Miles』とその関連曲のプレイリストで。

全40曲、
2時間35分。

01 Miles Davis: Will You Still Be Mine?
02 Tommy Dorsey & His Orchestra: Will You Still Be Mine?
03 Tommy Dorsey & His Orchestra: Yes Indeed!
04 Ahmad Jamal’s Three Strings: Will You Still Be Mine?
05 Ahmad Jamal’s Three Strings: Ahmad’s Blues
06 Miles Davis: I See Your Face Before Me
07 Evelyn Laye: I See Your Face Before Me
08 Mildred Bailey And Her Orchestra: I See Your Face Before Me
09 Mildred Bailey And Her Orchestra: Thanks For The Memory
10 Miles Davis: I Didn’t
11 Miles Davis: A Gal in Calico
12 Tex Beneke With The Miller Orchestra: A Gal in Calico
13 Tex Beneke With The Miller Orchestra: Oh, But I Do
14 Ahmad Jamal’s Three Strings: A Gal in Calico
15 Ahmad Jamal’s Three Strings: Aki And Ukthay
16 Miles Davis: A Night in Tunisia
17 Dizzy Gillespie Septett: A Night in Tunisia
18 Dizzy Gillespie Septett: 52nd Street Theme
19 Charlie Parker Septet: A Night in Tunisia
20 Charlie Parker Septet: Ornithology
21 Art Blakey & The Jazz Messengers: A Night in Tunisia
22 Sarah Vaughan with Dizzy Gillespie and His Orchestra: Interlude
23 Sarah Vaughan with Dizzy Gillespie and His Orchestra: East of the Sun
24 Ella Fitzgerald: A Night in Tunisia
25 Ella Fitzgerald: You’re My Thrill
26 Ella Fitzgerald: My Reverie
27 Ella Fitzgerald: Stella By Starlight
28 Ella Fitzgerald: ‘Round Midnight
29 Ella Fitzgerald: Jersey Bounce
30 Ella Fitzgerald: Signing Off
31 Ella Fitzgerald: Cry Me A River
32 Ella Fitzgerald: This Year’s Kisses
33 Ella Fitzgerald: Good Morning Heartache
34 Ella Fitzgerald: (I Was)Born To Be Blue
35 Ella Fitzgerald: Clap Hands, Here Comes Charlie!
36 Ella Fitzgerald: Spring Can Really Hang You Up The Most
37 Ella Fitzgerald: Music Goes ‘Round And Around
38 Miles Davis: Green Haze
39 Miles Davis: Sweet Sue – Just You
40 The Beach Boys: Surf’s Up

村上春樹: 風の歌を聴け で流れる他の音楽たち

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